いじめの背景と未然防止の手立て

集団で生活する学校は、子どもたちが将来社会生活を送るための練習の場です。子どもたちは長い学校生活の中で次第に他者への気遣いや寛容性を始めとするさまざまな社会性を身に着けていきます。ただし未成熟な子どもたちは、ヒトとしての本性をむき出しにする部分があります。加えて子どもたちは言葉によって意思を表現する技術が未熟で、いじめと言われる人間関係の序列を築いたり、差別感情を持ったり、自らの境遇の苦しさを膨らませて他者を傷つけてしまったりすることがあるのです。このこと自体は、発達の途上にある子どもたちにとって不思議なことではありません。ただ、そういった子どもたちに、大人は全ての人が生かされる社会環境こそが成熟した社会であり、尊いのだということを教えていかなければいけません。

そのような中で、深刻ないじめ問題を引き起こさないようにするためには、幼いころから互いの違いを尊重できる集団形成が子どもの日常の中にあることが大切だと思います。何故ならいじめ問題と集団のありようは深く関わっているからです。過度な競争や差別意識が強い集団はいじめが発生しやすくなります。まずは一番身近で最小の集団である家庭の中で互いの違いが認め合える関係ができているか確認し、幼いころから友達関係の中で違いを認め合えることの良さを身につけさせていくよう心がけることです。違いを認めるとは言葉の通りで父と母の違い、兄弟姉妹の違い、友人それぞれの違いを認め尊重することです。父と母では考え方も違うし性格も違う、どちらが良い悪いと比べるのではなくそれぞれがそれぞれに良さを持っている。もちろん間違ったことを言ったり行ったりしたら指摘はするが、互いに指摘されたことは素直に受け止めそれ以上に父と母それぞれのすばらしさに対し常に注目する姿勢を大切にしていくということです。年齢が上がるにつれて集団が大きくなりそういった考えを広めることは難しくなりますが、子どもの身近にいる友達が良い関係であれば、互いに辛い状況になったときの力となることでしょう。そういう意味でも、子どもの友達と家族ぐるみで食事をしたり遊びに出かけるなど、子育てにかかわる人を増やし楽しい子育てをしたいものです。

いじめを受けている子の心理状況

いじめ問題の難しい部分は、いじめの実態が見えにくいことです。極端に言うと当事者さえいじめと気づかぬうちにいじめが進んでいることさえあります。いじめを行う側は特にいじめの認識が薄くいじめを遊びの一部ととらえ楽しんでいるところがあります。いじめられる側も遊んでもらっているように感じ、何か辛いのだけれども仕方がないと思っているところがあります。特にいじめに移行していく初期の段階ではこういった傾向が強くあります。ただ、いじめによっては最初から悪意を持って複数の人間がターゲットを定め嫌がらせや心理的圧迫、暴力行為に及ぶ場合もあります。このような場合、いじめの加害者は発覚を恐れ様々な手段を取り発覚を防ぎます。人の見ているところでいじめの行為をしない、言葉の暴力を使う、あざをつくるほど跡に残るような暴力ではなく足を引っかけたりぶつかってきたりする暴力におさえる。そして、必ずと言っていいほど被害者に口止めをし、もし口外した場合にはひどい目にあわせると脅すのです。被害者は脅されて口外できないということもありますが、なによりいじめられている自分が弱いからいけないと自分を責めたり、家族に心配をかけたくないという心理が働き親にも教師にも言い出せないことが多いのです。いじめが発覚するのは、周りの子どもが教員に相談して初めてわかるという場合が多いのです。ただ、周りの子どもが声をあげられるというのは集団が健全な状態にある場合で、いじめの力が大きい場合には周りの子どもも声をあげると自分がターゲットになると思い口をつぐんでしまいます。いずれの場合も、いじめの実態が見えにくい状況にある中で、いじめを受けている子どもは、辛いけれども我慢して通り過ぎるのを待とうという心境になることが多いのです。

いじめの実態を明らかにする

見えにくいいじめだからこそ、どんどん事実を明らかにしていくことが大切です。こどもはいじめの実態を話そうとしません。一つには前述したとおりですが、もう一つ親に話し教員に伝わり中途半端な指導で終わったときにいじめがひどくなることを子どもは知っているのです。子どもから話を聞くときに注意することは、担任に伝える場合は必ずあなたの了解をとってからにするということを約束してから聞くようにします。軽はずみに動かないことを約束するのです。最近元気がない、服が汚れている、物が無くなるなどがあった場合はこの約束をしてから話を聞きます。

そして、いじめを解消するための手立てを考えなければいけません。いじめを被害者本人が解決することは不可能です。ここでは学校の力が必要になります。ただし、子どもが危惧するように、中途半端な対応では事態は悪化します。また、暴力集団が学校にあって学校がその暴力集団の指導に苦慮している場合も解決は難しくなります。学校には、慎重にいじめの事実を集め、実態を明らかにしてもらいます。そしていじめの加害者の指導をどのように行えばいじめが無くなるかをしっかりと議論していただき指導方針を伝えていただきます。そして、いじめの被害を受けている子どもが納得した段階で指導に入るようにお願いをします。

現在、文部科学省では「いじめ防止対策推進法」を定め、各教育委員会と各学校に「いじめ防止基本方針」を定めることを義務付けています。これらの方針に則って学校が組織的にいじめ解消に向けた行動をとるように要望します。子どもの年齢が低く、担任の指導で解消できるようなケースであればよいのですが、年齢が上がり悪質と思われるケースの場合は、学校の管理職に伝えるなどして学校に慎重に対応していただくように要請することが大切です。

いじめを受けている子を徹底して守る

学校が動きを取ると、一旦はいじめが収まるのが通常です。ただ、収まったように見えて、更に見えにくい状態で再燃することもあります。引き続き、学校では組織的に見守りを続けていただき、子どもを徹底して守るという視点で学校と家庭が協力していく必要があります。また、いじめを行った加害者を十分に指導できなかった場合も学校と親が協力していじめを受けている子どもを徹底して守るという姿勢が大切です。