不登校の原因と未然防止の手立て
不登校の増加と低年齢化は進む一方です。不登校の原因は様々で、いじめの被害を含め子ども同士の人間関係が原因になる場合や学習不振が原因となる場合、不安感が強くなり精神的に追い詰められてしまう場合などさまざまです。その他学校生活が順調であっても突然不登校となるような原因がよくわからない不登校もあります。ただ、原因不明の場合でも、何らかの不登校となる要因が積み重なりそれが限界に達したときに不登校になると予想できます。不登校の子どもに共通して言えることは、学校に行かないことで始めは少しほっとした気持ちになるのですが、次第に学校に行かいない自分を責めるようになることです。それは意識化されることもあれば無意識のうちにいら立ちや怒り、落ち込みなどの様子となって現れることもあります。
では、どうすれば不登校を防ぐことができるのでしょう。こうしておけば不登校にはならないという方法は見当たりませんが、子育ての基本を理解し実践していくとともに、子どもの興味の柱をできるだけ多く作ってあげることと子どもの生きざまを大人が認めていくことが有効だと思います。子どもの興味の柱とは、様々な体験と様々な出会いを通して子どもの中に作り出される興味の対象です。サッカーに夢中になるだけでなく天文に興味を持ったり、絵を描くことが好きになったりと興味の柱を増やすことで子どもは多面的な思考ができるようになり、柔軟に対処する力がついていきます。そして、子どもの生きざまを認めるとは、子どもの努力や良い行動、子どもの考えを評価していくことです。返事ができれば「いい返事だね」、にこやかにしていれば「何かいいことあったのかな?」、『おじいちゃんのお土産はカステラがいいと思う』と子どもが言えば「いい考えだね」と返してあげる。そのようにちょっとしたことでも評価していくことで子どもの中に自信がふくらんでいきます。
ここで注意しなければいけないのは、認めることと子どもの言いなりになることとは大きく違うということです。認めるとはあくまでも子どもの努力などに対し評価していくことで、子どもの好きにさせることではありません。そこで、良くない行動にはNOと評価しますが、NOを出さなくても良いと思える行動はできるだけプラスの評価を与えることがポイントです。親が自分を認めてくれるという思いは大きな自信となり困難に立ち向かうエネルギーとなるのです。
登校がつらくなっているとき
それまでの学校生活に比べて欠席の日数が増え始めたとき、学校に行くことを渋りだしたとき、また登校はできていても食欲がなくなったり元気がないとき、子どもを注意して観察することが重要になります。子どもに何が起きているかを子ども自身が話してくれればいいのですが、なかなか自分の置かれている状況を親に話すことができない場合が多くあります。そのようなときは、子どもを詰問するようなことはせず、いっしょにお風呂に入ったり、散歩をしたり、ドライブに出かけたり、ボール遊びをするなど子どもが楽しめてリラックスできる状態をつくりながら、本心を少しずつでも話させることが大切です。私はあなたの最大の見方だよというオーラを出しながら。それでも、子どもが口を開かないときは、学校の先生や仲の良い友達に様子を聞いていくことになります。
子どものストレスの原因がわかってきたら、そのストレスの原因が対人関係など取り除くことが可能な内容であれば学校の先生などと相談しすばやく解決策を打ち出し実行していきます。原因がわかってきてもすぐには解決できない場合や原因がよくわからない場合も学校のスクールカウンセラーや市町村や都道府県の相談機関に相談し、どのような手立てがあるかを一緒に検討してもらうことが大切です。相談機関には深刻な不登校になって初めて相談するという場合が多くありますが、一番大切なのはこの時期に相談機関とよく連携することだと思います。なぜなら、一度不登校の状態に入るとなかなか改善に向かうことが難しくなるからです。
不登校がはじまってしまったとき
欠席が一日二日と続いたとき、保護者はこのままずるずると欠席が続くと大変ないことになる。早い段階で登校させないとどんどん登校が難しくなると焦り、無理に登校させようとする場合が多くあります。残念ながら、子ども本人が登校するという意思がない限り登校させることはできません。一般的に不登校のメカニズムとして考えられているのは、子どもが登校したいと思う意欲よりも大きな障害が学校にある場合と子どもが登校するためのエネルギーが枯渇している場合に不登校になるということです。いずれも子どもは学校には行きたいという思いはあるが行くことができないというケースが多いのです。
ここでできることは、子どもの障害となっていることを軽減させることと子どものエネルギーを充填させていくことです。意味もなく学校に行きなさいでは子どもは動きません。今学校ではこういう取り組みをしている、学校ではこういう対応を考えてくれていると障壁が小さくなっていることを説明できるように学校と協力した動きを取ることが大切です。同時に、エネルギー充填のために何をしなければいけないかを教育相談機関等と一緒に考えていくことが大切です。
不登校の状態が続いているとき
不登校が続くと、昼夜逆転が起こることがあります。また、家の中にいるときも家族との接触を拒み孤立していくことがあります。これらは、不登校の状態を測るバロメーターと考えられています。なぜなら不登校の状態が解消に向かうと昼夜逆転が治ってくる傾向がみられるからです。また、家庭内の孤立が進むということは子どもが家庭内でも認められていないと感じていることを示していると考えられるからです。状況としては、不登校ではあるが、家族とは楽しく生活できている、不登校ではあるが外出できる、不登校ではあるが教育支援センターなど学校外の施設に登校できる、教室には入れないが別室には登校できるというように、不登校解消に近いほど後のケースになります。これは、子どもを認めてくれる場所が、家庭から塾など外の機関、学校の先生と広がっていくことを意味します。最後は教室の中で同級生に認められると感じることができるかどうかです。家族や教員が手を尽くして不登校の子どもを認めるよう努力していても子ども本人がそれを感じることができない場合が多くあり解決に向けた時間が多く必要となってしまうのです。
家庭で、子どもが家族から認められていると感じるということは、家族が子どもの気持ちを理解し、子どもの意思を尊重するということです。簡単な方法を紹介しますと、子どもの気持ちを大人が言い当ててあげます。そうすると子どもは自分の気持ちを理解してくれていると感じていきます。おいしそうな顔をしていれば「おいしいね」と言い、寒そうにしていれば「寒いね」と言うことです。そして意思を尊重するとは、今日はかつ丼と天丼どっちがいい?と聞いて子どもに決めさせることです。日常の些細なことでいいのです、できるだけ子どもに聞いて決めさせることで意思が尊重されていると子どもは感じていきます。それらの積み重ねが、子どものエネルギーになっていきます。
ここでよく勘違いすることに「認めること」と「子どもの好きにさせる」ことを一緒にしてしまうことです。認めることと好きにさせることとは違います。子どもにやりたいことを何でもやらせることは、子どもの後の生活に悪い影響を及ぼします。不登校であっても家族の一員としての義務と役割は果たさなければいけません。朝起きたらおはようと言う、お風呂掃除が役割であればそれを行う。それらを拒否した場合、叱る必要はありませんが、拒否は認めないよという姿勢は子どもに見せるべきです。子どものやりたいことややろうとすることに対してはできるだけやらせる方向で子どもと向き合うことは良いことですが、それが子どもの健康や思想に悪影響を及ぼすと考えられたり、家族の義務や役割などのルール違反の行為であれば、しっかりと説明して制限することが大切です。
不登校が解消する兆しが見えたとき
子どものエネルギーがたまってくると、だんだんと家にいることが退屈になってきます。外に出ることが可能になり、教育支援センターなど学校外の施設に通えるようになり、別室に登校できるようになっていきます。ただ、ここで過度に子どもに期待をかけることは禁物です。ゆっくりゆっくりと生活の場を広げることが重要です。急ぎすぎて息切れがして以前よりも悪い状況に戻ってしまうこともよくあります。本人の意思を確認しながら、時には家族がブレーキをかけて一段ずつそこまでやって大丈夫かどうかを確認しながら進めることが大切です。
不登校の状態から抜け出したとき
不登校になるとその状態から抜け出すためには長い期間がかかる場合が多くあります。その間、子ども本人は辛い思いが続くことになりますが、家族も同時に辛い思いが続きます。そのような時こそ、子育てに関わる人を増やし、互いが互いを大切にする「楽しい子育て」を実践してほしいと思います。経済的に余裕があれば家庭教師に入ってもらうことも良いですし、学校とは関係のない習い事をさせることも良いでしょう。そのようにして子どもの周りに人を増やすことと子どもには家族としての義務と役割を果たさせるよう促す(注:子育ての基本3-3)ことが良いでしょう。そのような支えあいの体制が不登校の状況の中で作られていけば、その状態から抜け出した後も同様に楽しい子育てができると思います。
不登校とスマホやゲームとの関係
あえて、この項目の中でスマホとゲームに触れることはしませんでした。しかし、これらの電子機器は、不登校の様態を変化させたと言っても良いくらい大きな影響を与えていると考えます。以前は学校に行きたいがいけないという子どもがほとんどだったのが、最近は、学校よりも家でスマホやゲームをやっていた方が楽しいから学校に行かないというケースを感じることがあるからです。子育ての基本で繰り返し述べましたが、年齢の低い子どもほど電子機器から子どもを遠ざけることを徹底しなければスマホやゲームのとりこになる子どもが増え不登校の解決を困難にする一つの要因となることは明らかだと思います。
起立性調節障害と不登校
原因がよくわからないまま登校ができなくなり病院に行って起立性調節障害という診断を受けるケースがあります。対人関係に問題がなく学習面でもそれほど苦戦している様子がないのに朝起きられないし体がだるく腹痛や頭痛がするという子ども達です。調子のよいときは普通に教室で授業を受けている様子も見ることができます。このような場合は医師の指示に従いながら無理のない範囲で趣味や生活の柱を増やす試みを行ってはどうかと思います。体を動かし人と出会い、さまざまなことを考えるという人間の活動を本人のペースで進め広げることが回復のきっかけとなるのではないかと思います。