名を呼ぶ
私の名前は、たなか さとしです。父も母も私が幼い頃から“さとし”“さとし”と呼んでいました。小学校に入ると先生や友達からさとし、さとしくん、さとしちゃんとかさとべいさんなどと呼ばれていました。ところが、中学校に入ったとたんに先生や違う小学校から来た同級生達が“たなか”と私のことを呼んだのです。これは私にとって大きな衝撃でした。あれ、誰のことかな?そうかボクのことかと思ったものでした。その中にあって社会の先生と体育の先生が“さとし”と呼んでくれたのです。この先生は二人ともとても厳しい先生でしたが私はこの先生が大好きでした。名を呼ばれるということは私がそこにいるというだけでなく私という人間を認知してもらえているという嬉しさがあったのです。叱られることが多かった私ですが名を呼びながら叱られていると“私のことを思って叱ってくれている”と感じたものです。
名とはその人を特定するための呼称というだけでなく、次第にその人そのものになってしまうのではないでしょうか。私は教員になってある時から名を呼ぶことの大切さに改めて気づきできるだけ多く子どもの名を呼ぶようにしました。授業で指名するときも活動の際に指示するときも話しかけるときも必ず苗字ではなく名を呼びました。4月当初人間関係がまだできていない時は苗字と名の両方をフルネームで呼びます。そして次第に名だけを呼ぶようにします。中学生の女の子で名だけを呼ぶと“馴れ馴れしい”と嫌がられる場合はずっとフルネームで呼びます。そうすることで、子どもとの距離が近くなっていくことを感じました。
家庭内で自分の子どもを苗字で呼ぶ親はいないと思いますが、名を呼ぶのは子を叱る時だけという親御さんの話も聞きます。何かにつけて、ことあるごとに子どもの名をたくさん呼んであげてください。
名を呼ぶ
たなか さとし
さとし
さとし
さとし
と呼ぶ
真夜中の真っ暗闇の中で
寝返りを打つのも困難になった母が
しわがれたあえぐような声で
さとし
さとし
さとし
と私の名を呼ぶ