人を育てることは脳を育てること その1 脳の個人差

私はもともと中学校で理科を担当する教員でしたが、県立の教育相談センターで不登校やいじめの問題、子どもの発達に関する相談など、3才から18才までの子どもが抱える相談と支援を行う仕事についていた時期がありました。私は中学生の相談を担当することが多かったのですが、小学生や高校生の相談も受け持ちました。重い自閉症や精神疾患に陥る直前の子ども達を担当することもありました。相談は私と臨床心理士がペアになり親担当と子担当が決められ、約1時間、親子別々に話を聞き年齢に応じたゲームや運動など活動を取り入れながら子どものアセスメント(子どもの現在の状態を把握すること)を進め課題解決に向けた方策を探り、最後は親子、相談員ともども一緒になって明日への希望を確認しあい相談を終えました。

私が、教育相談に携わる前は、子ども達一人一人を個性のある個人として見ていたように思います。しかし教育相談を行っていた時は、この子どもはどのように脳が発達し、どのような認知・行動を行っているのだろうかという視点で観るようになっていました。当然、そういった視点で子どもを観るためには多くの知識を身に付ける必要があり、研修や書籍を通じて懸命に学んだことをよく思い出します。今ではかなり一般的になりましたが、ウィスク(Wechsler Intelligence Scale for Children)という児童向けの知能検査もその一つです。人の脳は、成育歴や遺伝によって特徴を持った認知・行動を行います。特にウィスク検査で特徴的なのは、「聞く・話す」と「見る・書く」の能力を見極める検査です。人によって「聞く・話す」が得意な人と「見る・書く」が得意な人がいます。「聞く・話す」が得意な人は、耳からの情報を取り入れるのが得意で、聞いたことをどんどん理解し考えたことを自分の言葉として上手に表現します。一方「見る・書く」が得意な人は、目からの情報を取り入れるのが得意で、立体図形などは見えない部分までも想像しながら理解し紙の上に鉛筆でスラスラと再現して見せます。この「聞く・話す」と「見る・書く」がバランスよく発達すればよいのですが、どちらの発達も遅い場合や一方の発達に遅れがある場合、生活や学習に困難な状況が起きてしまうことになります。ウィスクには、「聞く・話す」と「見る・書く」の発達を調べる検査の他に、「一時的に記憶する能力」や「見て書くなどの速さ」を調べる検査もあります。知能検査には、ウィスクの他に、KABC知能検査、田中ビネー知能検査などがあり、子どものどのような面を調べる必要があるかによって使い分けます。ただ、知能検査は、あくまでも子どもの一面を探るための補助的な道具であって、実際の子どもの行動を観察することやこれまでの育ちの中で思い当たる特徴的なエピソードを聞き取ることが重要になります。

人には、また、「同時処理」が得意な人や「継時処理」が得意な人がいます。「同時処理」が得意な人は、地図や図面など全体を目で見て位置や空間を想像することが得意な人です。また、「継時処理」が得意な人は、道順などを、「右に曲がって30m先にあります。」など系列的に時間順序で説明を聞くことが得意な人です。「同時処理」が得意な人は、形を見て漢字を覚え、「継時処理」が得意な人は、書き順を覚えて漢字を覚えると上手くいくと言われています。これら、「聞く・話す」と「見る・書く」や「同時処理」と「継時処理」の認知・行動の違いは、大人にも当然あてはまり、その人の脳の特徴と言えます。ちなみに、私の脳は「見る・書く」と「同時処理」が優位に働いていると感じています。いまあげた認知・行動の特徴はほんの一端で、人にはそれぞれ固有の特徴を持った脳が育っていきます。

参照:ルドルフ・シュタイナーが言う12の感覚

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