社会的環境と生理的環境

私は、これまで不登校に直面した多くの子ども達に出会いました。初めての出会いは、今から40年近く前の私が教員になってまだ間もない頃のことです。その子の家庭は経済的に厳しく、その子自身知的な遅れが見られ、友達や教員ともコミュニケーションをとることが難しい子どもでした。当時担任だった私はその子に寄り添いその子の内面にまで入り込んで心を開かせるような力がありませんでした。結局、時々登校はできても欠席は徐々に増えて卒業していきました。

それ以降、私は不登校に直面した多くの子どもと出会う度に、私のできることは、その子どもに寄り添い、その子の内面にまで入り込み心を開かせる努力を続けることだと信じ、たとえ登校はできなくとも心を通じ合わせたいという一心で子どもに接しまた。家庭環境に起因する場合、学校内の環境に起因する場合、学校の外の環境に起因する場合など、子どもを取り巻く社会環境の中で不登校という状態が発生してしまうという前提の中で私は子どもの心を開くという行動を担任として努めたのです。

ところが、ちょうど20年程前に、家庭環境にも学校内外の環境にも問題になるような点が全く見られず、合わせて、いとも簡単に心を開いてくる不登校の子どもに出会ったのです。その子どもは、家庭内のどこを見ても問題になりそうなところがなく、学習や運動の能力が高く、人望も厚い子どもでした。ただ、穏やかでおとなしいという点が今になってみると、このタイプの不登校の始まりだったのではないかと思えるのです。このタイプとは、今ではとても一般的に言われる「起立性調節障害」と医師に診断される子ども達です。

「起立性調節障害」と医師に診断される子ども達の私が感じている特徴は、穏やかでおとなしい子ども達です。これは私の出会った子ども達がたまたまそうだったのかもしれません。私の出会った「起立性調節障害」と医師に診断される子ども達は、家庭的にも学校内外の環境的にもこれと言って問題となることが見当たらず、調子がいいときは、教室に入って普通に授業を受けて友達と楽しそうにしているのです。私は正直困惑しました。不登校に至る社会的な要因がまったく見当たらないのです。長い間、これは謎でした。

これまでは、それでもどこかに社会的要因が潜んでいるのだろうと推測してきましたが、最近になって考えることは、社会的環境が不登校の原因でないのなら、何か別の要因があるのではないかということです。これはあくまでも私の仮説であり、まったくの見当違いであるかもしれません。私が不登校に至る社会的原因以外の要因として考えたことは、生理的要因です。生理的要因とは、子どもの成育歴の中で、生理的に満たされなければならない要因が欠落しているではないかということです。例えば、十分に日光を浴びていないことで体内に生成されるべき物質が十分に生成できていないとか、冷暖房の利いた空調の中で過ごすことが多く体温調節が上手にできないなど生育の中で発達しなければならない生理機能が十分に発達していないことが身体の異常を引き起こし登校できない状態を作っているのではないかと考えたのです。

「起立性調節障害 Orthostatic Dysregulation」を日本小児心身医学会のホームページで調べてみると、循環器と自律神経に異常が生じることで発症することが書かれています。起立性調節障害を発症した子どもたちは、良く分からない中で倦怠感や頭痛、腹痛、動悸に悩まされるのです。私は、そこに至るまでに異常を引き起こす何らかの要因が生活の中に潜んでいたのではないかと考えるのです。それは、現代の生活様式が影響を及ぼしている可能性があるのではないかと思うのです。この仮説が正しいか正しくないかは分かりませんが、この疾病を一旦発症した子どもは通学が困難になるという大きな不利益を被ることは事実です。防げるものであれば防ぎたいというのが私の一念です。

起立性調節障害を予防する効果があるかどうかは分かりませんが、乳児、幼児、児童、少年と成長する中で、その時期に応じて日光、風、土、水、火など自然のモノに接し体を十分に動かし身体機能をバランスよく育てるということを子育てを行う全ての方々に行ってほしいと強く思うのです。このことは身体的にも精神的にも子どもの成長に将来的にとても有効に作用することだと私は思っています。子ども達が自然の中で汗まみれ泥まみれになりながらとことんまで遊ぶことが難しくなってきた現代社会において、それに代わる身体機能の高揚と心の高揚をもたらす遊びを子ども達にはたくさん経験させたいのです。

最後に、現在起立性調節障害という疾病に悩まされている皆様にお伝えします。私の出会ったこの疾病に悩む子ども達は、皆穏やかで優しい子ども達でした。皆さんの中には汗まみれ泥まみれでずっと遊んでいたという人もいるかもしれません。そうしなかったことが疾病につながったとは決して言えません。ただ、もしそうすることで少しでも病気が良くなる可能性があるのであればと思いここで書かせていただきました。私が出会った起立性調節障害に悩む子ども達に私はいつも体を動かすことを勧めてきました。皆さんが一日も早く病気が治癒することを心より願っています。

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