読書と内言語

子どもの成長にとって読書の大切さは多くの人が認めるところではないでしょうか。ファンタジー、サスペンス、友情、冒険、伝記と、読書の中で繰り広げられる世界に入り込み、それまで知らなかった新たな価値観を自らの経験とすり合わせながら人は獲得していくように思います。それと同時に、読書の良さは、内言語、すなわち思考する力を鍛えるためにとても重要な役割を果たしているのだと思います。

人の言葉は、外言語と内言語に分けることができます。外言語とは普通に会話をするときに使う音声の言語です。内言語は声には出さず自分の頭の中で、あーでもないこーでもないと思考をめぐらせる言語です。内言語は、子どもがおままごとやウルトラマン人形で一人遊びをするとき、人形に話しかけたり、人形が話すのをまねて声を発する言語から始まるとレフ・セミョノヴィチ・ヴィゴツキー(旧ソビエト連邦の心理学者1896-1934)は述べています。内言語は、次第に自分の心の中の自分だけの言語として成長し、その人の思考そのものになっていきます。

読書は内言語を鍛えます。活字を内言語を使い読み取り、情景や内容を頭に描きます。共感する部分には心の中で歓声をあげ、不安な部分にはどうすれば不安が解消するか考え、疑問点があれば探求し、新たな発見があれば記憶に留めようとします。これら全ては心の言葉である内言語を使って行います。読書が進むと次第に語彙が増え概念形成が進みます。語彙が増えることや概念形成が進むことはまさしく思考するツールが増えることにつながります。そのように読書は、子どもの世界観を広げるだけでなく、思考する力を高めていくのです。

ところが、年齢が上がるにつれて、読書を好んで行う子どもと読書を嫌がる子どもが現れてきます。読書の面白さを知り、思考する楽しさを覚えていった子どもは読書を好んで行うのでしょうが、読む力のついていない子どもは、読書を苦痛に感じるのだと思います。読書を楽しむためには、単語の意味や音節を知り、文の内容をスムーズにつかみ取る必要があります。これには、幼児期から聞く話すといった言葉の体験とともに、見る触れる聞く感じるといった豊富な生活体験が大切なように思います。豊富な生活体験の中でさまざまな言葉と出会い、絵本の読み聞かせなどで改めてその言葉を文字として認識する中で読みの力は育つのだと思います。子どもにとっては、実際に見たことのない動物が絵本の中に出てきても何のことだかさっぱりわかりません。

ただ、言葉の環境を整えていっても、読みの力がなかなかつかない子どももいます。このような子どもは、読書をすることで思考する力や内言語を育てることが難しくなります。このような子どもの場合、読みに頼るだけでなく、他の方法で思考し内言語を育てる必要があります。たとえば、図や表、絵など視覚的に事象を捉え、聞く話す力を使って問いかけをしてあげることを意識的に行うことも有効でしょう。聞く話す読む書くは、互いに密接に関係しています。できないことを段階的に丁寧に指導することは大切ですが、ちょっと視点を変えて他の活動でできないことを補うことも大切な方法です。教育相談の世界では、できないことに過度に視点を定めるのではなく、できることが何かを探しそれを伸ばしていくことが基本になります。内言語を豊かにしてあげることは、その子どもの一生を大きく変えることにもつながる大切なことです。子どもの特徴をよく観察し子どもの良さを有効に活用するための環境を整えてあげたいものです。また、ちょっとした疑問点が現れたときには、教育相談の電話を利用することもお勧めです。

参照:思考と言語

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