自然の中で
土
たなか さとし
いつから土がなくなったんだろう
土はあってもきれいな庭、きれいな公園、とてもドロンコ遊びや穴掘りができる土ではない。
水をかけてグチャグチャにすればドロダンゴ、ドロマンジュウ、なんでもできる。
水を流して水路をつくり、笹舟を浮かばせ水をせき止めダムづくり
せき止めた水を一気に流すと、笹舟はスピードを上げて流れていく
土の手で鼻の下をこすればチョビヒゲのおじさんになり、マユにつければチャップリン
おとうさんのスコップを持ちだして地面に穴を掘る
おとなに「地球の裏側に出ちゃうよ」とひやかされると「そうかなぁ」と思いながらも掘る
ずっとずっと掘っていってふたをすれば、とても快適なすみかができる
土のにおい、根のにおい、しめった感触
じっと耳を澄ますと土の中から何かが聞こえてくる
何だかわからないが聞こえてくる
土はいろいろなことを感じさせてくれる
そんな土で、子どもたちは遊べなくなったし遊ばなくなった
自然は、私たちにたくさんのことを教え、感じさせてくれます。また、自然は、気持ちを落ち着かせ人と人との心の垣根を低くしてくれます。そんな自然の中で私たちの年代の人間は育ち、育てられました。
自然の中で育つ良さはそれだけではありません。自然を前にしたとき、子どもはどのように遊ぼうか、どうやって楽しもうかと創造力をフル回転して考え、友達とおしゃべりをしながら無限に広がる遊びの世界を楽しむことができます。そういった中で、将来職業人となるための能力をも身につけてきたのだと思います。
かつてジャパン・アズ・ナンバーワンという著書まで現れた日本の製造業も中国経済の台頭もありこのところ苦戦をしいられています。これまでメイド・イン・ジャパンを支えてきたものは、日本人が互いに力をあわせ試行錯誤を繰り返しながらさまざまな課題を乗り越え努力する力があったからではないでしょうか。
文部科学省が進めるキャリア発達に必要とされる能力にもOECDが職業人に必要とされる主要な能力にも人間関係形成能力や情報活用能力が含まれています。これまで、自然の中で遊びを通じて身につけられてきた諸能力を学校や家庭で意識して教育しなければならない時代になってきたのでしょうか。
本校には、広大な敷地の中に自然林もあれば銀杏の実もたくさんなっています。ちょっと上を向けば大きな空が子どもたちを包み込もうとしています。そんな空の下でボールを追い、飛び、走り、ぶつかり合う子どもの姿を見ていると、まだまだ自然はあるなと思います。子どもたちを自然にどっぷりと浸かったアドベンチャーの世界にいざないたいとつくづく思います。