環境と脳
人間の脳は千億個の脳細胞(ニューロン)を互いに連結し最終的には千兆にも及ぶ結合からなる複雑なネットワークを作ることで機能します。千億の脳細胞(ニューロン)は生まれたときにすでに形成されていますが、脳細胞をつなぐ連結は少なく、出生と同時に赤ちゃんが周りの環境から刺激を受け反応し行動を起こすことで急激にその結びつきを増やしていきます。特に、一歳までは爆発的に連結を増やしますが、その後使われない連結は切断され、よく使われる連結はその結びつきが強化されその子ども独自の接続が出来上がっていきます。
ギニア出身のタレント、オスマン・サンコンさんが来日当初、視力が六・〇であったことは有名ですが、アフリカの広大な大地を眺め遠くにいる物を見つけようとする日常の生活が、脳細胞の視力をつかさどる連結を強化し我々には考えられない視力を身に付けることになったのでしょう。
このように、人間の脳は、使われる部分はどんどん強化され使われない部分はそのつながりを弱めていくようになります。 人間の脳は、まわりの環境に応じて変化しカスタマイズ(形成)されていきます。本来、子どもは、自然の土、水、火、空気、動物、植物に囲まれ、親のふところにいだかれながら、言葉のシャワーをあびて育ちます。これは、すべて生身のものでありすべて本物です。私が生れたときにラジオはあってもテレビはありませんでした。以降、さまざまな電子機器が登場し我々の生活はとても便利なものとなりました。その反面、生身ではなく本物でないものがあふれることとなりました。テレビから流れる声は、実際の声とは違います。実際の声には感情や熱の感覚、安定感、安心感、臨場感など言葉には表せないほど多くの要素を含んでいます。脳は、その微細な情報をもキャッチし考え行動し脳細胞間の連結を進めていきます。デジタル情報を浴びて育った子どもは、デジタルでは抜け落ちる本物しか持ちえない情報を感じる力が育たないまま成長することになるのです。このことが人間形成に陰を落とし、偏った人格や不安定な精神状態を引き起こしているのではないでしょうか。特に、一歳までが重要です。自然の土、水、空気、動物、植物に触れさせることで本質を感じる力が身に付きます。また、親のふところにいだきながら、言葉のシャワーをあびせることで人間として必要な感覚や感情、バランスを含んだ言葉を身に付けていきます。電子機器の恩恵を享受できる今だからこそ、電子機器の影の部分を十分に理解し、上手に使いこなさなければいけないのだと思います。