動物の原始的な防衛本能「戦う」「逃げる」「固まる」は危機のサイン
東京学芸大学の大河原美以先生のご講演をこれまで何度か聞かせていただきました。私が特に印象に残っていることは、親や教師が子どものネガティブな感情を理解することの重要性についてのお話です。生まれてすぐに、赤ちゃんは「快」「不快」の表現から、乳を求め排せつ物の処理を親に要求します。これは、要求と言うよりは生理的な反応と言った方がいいかもしれません。その生理的な反応が次第に感情を伴った「快」「不快」の表現へと移っていきます。そして「快」の気持ちは、「心地よさ」「満足感」「嬉しさ」「楽しさ」「感動」などに分化していきます。「不快」な気持ちも、「気持ち悪さ」「痛さ」「苦しさ」「悲しさ」「辛さ」「むなしさ」「切なさ」などに分化していきます。「快」をポジティブ、「不快」をネガティブな感情とすると、ポジティブな感情は親から共感されることが多くありますがネガティブな感情は親からの共感が得られないことがしばしばあります。それは、ポジティブな感情の表現が「笑顔」「笑い」と親が受け入れやすい行動として現れるのに対し、ネガティブな感情の表現が「だだをこねる」「泣く」「叫ぶ」「暴れる」「固まって動かなくなる」など親が扱いづらい行動として現れるからでしょう。大河原先生は、そのネガティブな感情こそ、親が理解し受け止めることが大切だとお話しされます。
子どもは、「満足に食事や睡眠がとれない」「勉強が分からない」「友達とうまく関係が築けない」など厳しいストレスにさらされると、『暴力的になる』『逃げだす』『固まって動かなくなる』などの行動を起こします。大河原先生はこれを『動物の原始的な防衛本能』と説明します。動物は身の危険を感じた時に「戦う」か「逃げる」か「固まる」かして危機を回避しようとするのです。多くの肉食動物は「戦」います。それでも、自分より強い相手には「逃げる」しかありません。草食動物は「逃げる」手段を使うための体のしくみを備えています。カメは「戦いも」「逃げ」もせずに手首足を引っ込めて「固まる」ことで身を守ります。虫の世界では「戦う」のがカブトムシ、カマキリ、「逃げる」のがセミ、ゴキブリ、「固まる」のがダンゴムシでしょうか。皆、危機的な状況になった時に「戦う」「逃げる」「固まる」ことで身を守ろうとするのです。
子どもが小学校や中学校に通う年代になって学校で『暴力的になる』『逃げだす』『固まって動かなくなる』行動をとるということは、その子どもが危機的状況にあるというサインを出しているのです。親や教師は、「暴力はいけない」「教室を飛び出してはいけない」「黙っていては何もわかりません」と言う前にその子どもがどれほど辛い思いをしているのか危機的状況の背景を理解することが必要なのです。大河原先生は、「辛いこと」「苦しいこと」を我慢できる子が「強い子」「良い子」と見てはいけないとおっしゃっています。そう「辛いこと」「苦しいこと」を上手に表現できることが大切なのです。また、子が親に抱かれて泣き止むことができる関係が大切ですとおっしゃっています。子どもが駄々をこね泣き叫ぶ時こそ冷静に子どもを見つめ、そのネガティブな感情に寄り添っていきたいものです。