ふたたび教壇に立ってみて

私は、教職に就き24年間中学校で理科を教え担任を務めました。その間ルドルフ・シュタイナーとの出会いが私にとっての大きな支えではありましたが、実際のところ、感覚的に生徒と向き合い奮闘努力を日々重ねていたというのが実情でした。その後、県の教育相談の指導主事や教育指導の指導主事、そして小中学校の教頭、校長を務める中でさまざまな方向から教育を考えることができました。長く授業から離れ、子どもの息遣いが感じられる所から遠ざかり頭でっかちになっているのではないかという不安もある中、再び子ども達のそばで働いてみたいという願いが次第に大きくなってきました。そして、この春から小学校の理科専科というお仕事を頂戴できることとなったのです。

私の授業は児童の呼名から始まります。「あまのゆうさん」「いえながみずきさん」…(仮名)。毎時間毎時間授業の始まりは一人一人の名前をフルネームで呼ぶことから始まります。私は、心を込めて名前を呼ぶことほど、端的に各人の存在を認め各人を尊重していることを表現する行為はないと考えているからです。そして、本日の質問Today’s Question(TQ)「生物を2つに分けるとすると、何と何に分かれますか」など、前時や本時に関わる内容の質問の答えをノートに書かせます。子ども達は意識を各自の思考回路に集中させます。そして、本時のテーマを子ども達に書かせた後に、テーマの本質に迫る自然現象を子どもたちの前で演示して見せます。6年生の燃焼の単元では、ピーナッツとポテトチップを燃やして見せました。そして、穴の開いてある缶の中ではろうそくの火が燃え続けるのに、穴の開いていない缶ではろうそくの火が消えてしまうことを目の当たりに見せます。そこに授業者の言葉はありません。ただ、自然現象があるだけです。子ども達は、ピーナッツ一粒で試験管の水が沸騰するほどの火力があることに驚き、穴の開いた缶と穴の開いていない缶の違いについて考えます。そして、私は「物が燃えるためには何が必要ですか」の問いかけをします。ヴィゴツキーは「教師が環境を変えることで子どもを教育する」「教師は、社会的教育環境の組織者・管理者であり、一方でこの環境の一部分です」と述べています。そして、シュタイナーは「先生は、いわば自然の仲間にならなければいけません。なぜなら、子どもを成長させるのは自然なのですから」と述べています。私が、燃えるものとしてピーナッツとポテトチップスを使ったのは、燃えるものの多くが動物や植物の体である有機物であることに気づかせたかったことと、後々、食べ物が体内で燃焼と同じように熱源となっていることにつなげたかったからです。このように授業前半は、子ども達に自然のしくみについて驚きを感じ、疑問を持ち、予想を立てる環境を整えます。教育学者である佐藤学先生はご著書の中で度々「物との出会い、人との出会い、自分との出会い」という言葉を使われていますが、その「物との出会い」に当たるのだと思います。

私は、今年度の最初の授業で「理科を教わる」「理科を学ぶ」と並べて大きく黒板に書き、「理科を教わる」の上に大きく×を書き、「理科を学ぶ」の上に大きく〇を書きました。皆さんには、「理科を教わる」という気持ちで授業を受けてほしくない。理科を自らの力で観察し実験し学んでいってほしいと強い気持ちを込めて伝えました。そう、私は、授業の中で環境設定はするものの、後は子ども達自身が実験や観察を計画し結論を導いていってほしかったのです。そこで、「教科書を読む」こと「ノートにまとめる(要約)」こと「他者のノートを学級内でシェアして学ぶ」ことをさせました。ここには、図表を含めた長い文章を読み取る力が弱い、そしてそれを要約する力が弱いという子どもの現状と、これからの求められる学力の要素がそこにあると感じているからです。また、ヴィゴツキーは「異質な集団の中で互いが刺激し合う共同的な学び」の重要性を述べています。授業の中で授業者がファシリテーターとなり、子どもの言葉やノートの表現をシェアする活動を重視し、結論については教科書のまとめの文にマークさせ、マークの部分を強調しながら全員で読むことで終えています。佐藤学先生の言葉を使えば「人との出会い、自分との出会い」をファシリテートします。

これら私の実践はまだ堵についたばかりで、どれだけの成果が子ども達の中に現れるかは未知数です。また、今後、壁にぶつかることも多々あると思います。ただ、私の授業スタイルが有効であることが実証されるようであれば、学校内外に広めていくこともまた私の大切な使命なのではないかと思っています。長年、私にさまざまな立場で教育に関わる機会を与えてくださった諸先輩に感謝するとともに、今回この実践の場を与えてくださった皆様に心から感謝しています。そして、今は「子ども達の心の声を聴き、思いを伝え、愛し愛される」関係を子ども達との間に築くことに精一杯努力したいと思っています。

参照:カリキュラム・マネジメント

参照:見方・考え方

参照:教員、親そして人としての覚悟

参照:ルドルフ・シュタイナーとレフ・セミョノヴィチ・ヴィゴツキー

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